近年、働き方改革やリモートワークの普及により、副業への関心が高まっています。しかし、現状では多くの企業が副業を禁止、あるいは厳しく制限しているのが実情です。特に、基本給が低いにもかかわらず副業が認められない状況は、労働者の生活に直接的な影響を与え、大きな課題となっています。本記事では、なぜ企業は副業を禁止するのか、その理由と労働者の生活に与える影響、そして副業をめぐる法的な考え方と、私たちがとるべき具体的な対応策について解説します。
給料が安いのに副業を禁止する企業の実態
副業禁止の理由と企業側の主張
企業が副業を禁止する最大の理由は、従業員の本業への集中を促し、労働力の維持をはかるためです。具体的には、副業によって疲労が蓄積し、本業のパフォーマンスが低下するのではないかという懸念や、本業で得た知識やノウハウが競合他社に流出するリスクを回避したいという意図があります。また、企業秩序の維持も重要な要素であり、たとえば副業で会社の評判を落とすような行為が行われることを防ぐ目的もあります。これらの主張は、企業が円滑な事業運営を維持するために必要な措置だと考えられています。
労働者の生活に与える影響と矛盾
一方で、労働者の側から見ると、給料が生活を維持するのに十分でない場合、副業は家計を補うための重要な手段となります。副業を禁止されることで、経済的なゆとりが失われ、将来への不安が増大する要因となりえます。これは、企業が「従業員を守る」と主張しながらも、実態として経済的な困難を強いるという矛盾を生じさせています。特に、物価が上昇し続ける現代において、副業を禁止することは、労働者の生活の質を直接的に脅かすことにつながります。
副業規制と給与水準の関係性
企業が副業を規制する背景には、給与水準と労働生産性の関係性も深く関わっています。多くの企業は、給与を労働の対価として支払っており、その労働時間内で最大のパフォーマンスを発揮することを期待しています。もし副業を許可すれば、本業へのコミットメントが低下し、全体の生産性が落ちるのではないかと考える企業も少なくありません。しかし、低い給与水準が従業員のモチベーションを下げ、結果的に生産性を低下させているという側面も見過ごせません。給与水準の低さが副業へのニーズを生み、それが副業規制との間で複雑な摩擦を引き起こしているのです。
副業禁止は法的に許されるのか
労働基準法やガイドラインの基本原則
日本の労働基準法には、副業を直接的に禁止する条文は存在しません。労働者は職業選択の自由が憲法で保障されており、この原則に照らし合わせると、企業が一方的に副業を全面的に禁止することは難しいと考えられています。厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、副業・兼業は原則として認めるべきであるという考え方が示されており、企業は労働者の健康管理に配慮しつつ、柔軟な働き方を認めることが推奨されています。
企業が副業を制限できる範囲と条件
ただし、企業は無制限に副業を許可しなければならないわけではありません。以下のようなケースでは、副業を制限することが正当と見なされる可能性があります。
- 労働時間が長くなり、従業員の健康を害する可能性がある場合
- 競合他社での副業など、企業の秘密情報が漏洩するリスクがある場合
- 企業の信用や名誉を著しく損なう行為の場合
- 本業に著しく悪影響を及ぼす場合 これらの条件は、就業規則に明記されている必要があります。しかし、どこまでが「著しく」該当するかの判断は難しく、個々のケースで状況を判断する必要があります。
裁判例に見る副業制限の正当性の判断
過去の裁判例では、企業が副業を禁止したことが争点となったケースが複数あります。たとえば、本業に影響が出たとして解雇された従業員が、その解雇は不当であると訴えた裁判では、裁判所が個別の事情を考慮し、企業の主張の正当性を判断しています。一般的に、本業への影響が軽微である場合や、企業の機密情報に関わる職務ではない場合、副業の禁止は不当と判断される傾向にあります。裁判所は、企業側の利益と労働者の職業選択の自由を比較衡量し、客観的な事実に基づいて判断を下しているのです。
副業禁止の中で選べる選択肢と対応策
事前許可制や届出制の企業での対応方法
多くの企業は、副業を全面禁止ではなく、事前許可制や届出制としています。この場合、まずは会社の就業規則を詳細に確認することが第一歩です。その上で、副業の内容が本業に与える影響や、競業避止義務に抵触しないことを明確にし、会社に誠実に説明することが重要です。会社への説明資料を作成する際は、副業によって得たスキルが本業にも活かせる点や、労働時間管理を徹底する計画を提示するなど、会社にとってのメリットも示すことが交渉を有利に進めるポイントとなります。
副業に該当しない収入の得方とは
企業が定める「副業」の定義によっては、副業と見なされない形で収入を得る方法もあります。たとえば、株式投資や不動産投資、またアフィリエイト収入などは、労務提供を伴わないため、副業には該当しないと判断されるケースが多いです。ただし、これも企業の就業規則によって解釈が異なる場合があるため、事前に確認が必要です。副業に該当しない範囲で、自身の資産形成をはかることも一つの選択肢となります。
転職や労働環境の見直しを考える視点
もし現在の企業が副業を頑なに禁止し、給与水準の見直しも期待できない場合は、転職を視野に入れることも有効な選択肢です。副業を許可する企業や、リモートワークが可能で柔軟な働き方ができる企業は増えています。また、副業を許可しない理由が明確でない、あるいは正当性に欠ける場合は、労働組合や専門家への相談も検討すべきです。自身のライフスタイルやキャリアプランを再考し、より良い労働環境を求めて行動することは、自身の生活を守るために必要な決断となるでしょう。
まとめ
給料の安さと副業禁止という矛盾は、多くの労働者が直面する深刻な問題です。企業には事業運営上の理由がありますが、労働者には生活を守る権利があります。労働基準法やガイドラインは副業を原則として認めており、私たちは自身の権利について正しく理解しておく必要があります。もし副業を検討している場合は、まずは会社の就業規則を把握し、誠実な対応を心がけましょう。それでも状況が改善しない場合は、転職や専門家への相談など、次のステップを考えることも重要です。自身の人生を守るために、現状を客観的に見つめ、最適な選択肢を見つけ出しましょう。